第19回インパクト・サロン開催報告

12月17日に第19回インパクト・サロン「インパクト評価の現状と発展の方向性ー多様化・深化する手法の概観、統合報告との連携への展望」をオンラインで開催しました。当日は、80名以上の方にご参加頂き、活発な議論と質疑応答が行われました。改めて、ご参加頂いた方にお礼申し上げます。議論のポイントを以下、簡単にご紹介しておきます。

1.インパクト評価手法を巡ってー歴史的発展過程を振り返る 
 (小林立明 社会的投資研究所主任研究員)

  • 現在のインパクト評価の多様な発展を理解するためには、インパクト投資の発展過程を振り返ることが有効である。「手法自体の洗練」「インパクト投資市場の発展」「新たなファイナンス手法の登場」という3つの視点で分析する。
  • インパクト投資の発展段階は、「準備期(〜2007)」、「整備期(2007〜2014)」、「発展期(2014〜)」、「多様化期(2017〜)」に整理できる。
  • インパクト評価の初期には、準備期で主流だったアウトカム評価やSROIの影響が大きかった。この中心がGIINのIRISとB LabのGIIRS、そしてEVPAのインパクト評価・マネージ手法だった。
  • しかし、インパクト投資市場の発展に伴い、大手金融機関が参入してくると、ベンチャー・フィランソロピーのモデルを軸とするインパクト評価手法が求められるようになる。これを受けて、IRISはIRIS+に進化し、新たなスタンダードとしてIMPが登場した。
  • さらに、現在は、多様化が進んでいる。IFCによるインパクト投資運営原則、UNEPのインパクト金融原則、そしてSDGsの普及とESG投資の発展に対応するため、現在、様々なインパクト評価手法が提案されるに至った。
  • 今後、どの手法がスタンダードになるかは予断を許さないが、過去の失敗事例(ロジックモデル型プログラム評価、SROI、GIIRSレーティング、社会的証券取引所)の教訓を踏まえれば、簡便性・実用性、企業活動との整合性、既存の枠組みとの整合性、資本市場との連携がなされている必要があるだろう。

2.インパクト評価手法の概観と今後の方向性  
  (高木麻美 Stem for Leaves代表)

  • インパクト評価が求められるのは、投資家の投資判断のための企業情報の開示のためである。しかし、複数の開示基準が混在している場合、企業にとっては負担が重いというジレンマがある。
  • 現在、インパクト評価のフレームワークとしてもっとも使用されているのはSDGsである。これ以外にも、IMP、IRIS+、UNEPのインパクト分析ツール、B LabのB Analytics、インパクト加重会計なども使われている。
  • これらのツールは、インパクト・マネジメントのツールと理解するべきだろう。この上に「意思決定フレームワーク」、さらに「上位原則」があり、これが「開示・報告基準」へとつながっている。
  • 現在、企業の情報開示については、GRI、SASBなどの統合報告、IBCのステークホルダー資本主義の測定などの標準化の動きが見られる。また、IIRCとSASBは2021年に統合してバリュー・レポーティング財団を設立することを発表している。
  • さらに企業の財務会計に社会的インパクトを統合しようとする動きも見られる。

3.インパクト評価と企業の統合報告  
  (蛭間芳樹 日本政策投資銀行調査役)

  • DBJは責任ある金融として、環境格付、BCM格付、健康経営格付などのDBJ評価認証型融資を行ってきた。2020年度間末で累計の格付件数1275件、累計の融資実績2兆2575億円と、確実に実績を積み重ねてきている。
  • これ以外にも、サステナビリティ・リンク・ローンの提供、サステナビリティ経営診断サービス、危機管理経営アセスメントサービスなど、サステナビリティ経営を推進している。その原点には、宇沢弘文先生の社会的共通資本の考え方がある。
  • ESG投資が発展し、SDGsへの関心が高まるに伴い、サステナビリティに関する企業情報開示が求められるようになった。2014年には、日本版スチュワードシップコードが公表され、2015年にはGPIFがPRIに署名するなど、日本でも普及が始まっている。
  • こうした中、企業評価手法は、統合レポートのみならず、IRミィーティング、ESG調査、さらに銘柄選定などの投資判断に必要なインデックスなど、多様に展開している。統合報告については、日本でも価値共創ガイダンスが全体像を提示している。
  • 投資家は、ESGレーティングを活用しており、また企業も非財務目標の提示から、長期ビジョンの提示、TCFDに沿った開示など、多様な取り組みが進められている。

4.討論

  • 現時点では、非財務情報の開示は監査の対象となっていないが、今後は開示情報の妥当性をどう担保するかという議論が始まるだろう。とりあえずは第三者機関の認証が現実的だが、将来的には監査の対象とするかどうかと言う議論も起きると思われる。さらに、金融規制当局がこれにどのように関与するかも将来的には検討されるだろう。
  • 日本でも新政権で二酸化炭素排出量ネット・ゼロに向けた政策が打ち出されている。しかし、内容を見ると技術の発展が中心で、金融の果たす役割への視点が十分ではない。グリーン・エコノミーの達成には、金融の関与が不可欠。今後、議論を進めていく必要があるだろう。

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