第22回インパクト・サロン開催報告

5月24日(月)、第22回インパクト・サロン「インパクト評価の新たなスタンダード——環境省インパクト評価ガイドラインの意義と展望——」を開催いたしました。お陰様で、50名以上の方々に参加申込みをいただきました。ご参加頂いた方々、またお忙しい中、ご登壇頂いた方々に心からお礼申し上げます。

セミナーでは、まず社会的投資研究所の小林主任研究員から、環境省インパクト評価ガイドラインについての説明がありました。

インパクト評価ガイドラインの位置づけ

2021年3月に公開されたこのガイドラインは、2020年の「インパクト・ファイナンスの基本的考え方」を踏まえて、具体的なインパクト・ファイナンスの手続きと評価手法をまとめたものです。説明では、この評価ガイドラインの基礎となった複数の国際イニシアチブを概観し、それぞれの特徴や考え方を踏まえた上で、環境省のインパクト評価ガイドラインを位置づけるという形で進められました。

国連環境計画(UNEP)のインパクト・ファイナンス

環境省のインパクト評価ガイドラインの策定において、もっとも大きな影響を与えているのは、国連環境計画金融イニシアチブの「ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則」です。この手法は、SDGs達成に必要な資金を民間金融機関から調達するために、すべての主流金融機関がインパクト・ファイナンスに取り組むよう促しています。このために、必要なツールとして、包括的インパクト分析フレームワークやインパクト・レーダーと呼ばれるポジティブ/ネガティブ双方のインパクトの事前評価を行うツールを開発しています。

国際金融公社(IFC)のインパクト・マネジメント運営原則

また、国際金融公社が提案しているインパクト・マネジメント運営原則も重要なスタンダードです。この手法は、インパクト投資に特化していますが、インパクト投資の基本的手続きを整理しており、非常に実践的で分かりやすい点に特徴があります。既に、第三者認証もはじまっており、特に開発金融分野や新興国向け投資におけるスタンダードとなることが期待されます。

国連開発計画(UNDP)のSDGインパクト・スタンダード

最後に、国連開発計画がインパクト・マネジメント・プロジェクトと共同で推進しているSDGインパクト・スタンダードについても紹介がありました。これは、SDG達成のために、プライベート・エクイティ、ボンド、事業者向けに、標準的な意思決定枠組みを提供しようというフレームワークです。上記の2つのスタンダードが、投融資における意思決定から実際の投融資、報告までを実践的にまとめているのに対し、SDGインパクトはこれらを補完する意思決定枠組みという位置づけを取っているところに特徴があります。

インパクト・ファイナンスの基本的考え方とインパクト評価ガイドライン

これらの国際的なイニシアチブを踏まえた上で、環境省のインパクト・ファイナンスの基本的考え方とインパクト評価ガイドラインについての説明がありました。国連環境計画が推進しているインパクト・ファイナンスがすべての金融活動・商品を対象としているのに対し、環境省の枠組みは「ESG金融の発展型として環境・社会・経済へのインパクトを追求するもの」と位置づけており、限定的ではありますが、インパクト・ファイナンスという考え方を日本で初めて紹介し、インパクト評価の標準的手法を具体的な金融活動・商品に即して提示しようとした点に特徴があるという説明がありました。

特に、インパクト評価ガイドラインで提案されている「インパクト包括型」と「インパクト特定型」については、詳細な説明がありました。この枠組みは、あくまでも暫定的なものであり、今後、国連環境計画が提唱している「コーポレート・ファイナンス分析」、「特定ファンド分析」、「不動産ファイナンス分析」、「銀行向けポートフォリオ分析」などのツールが開発されるに伴い、さらに洗練されていくと思われますが、インパクト評価を開始する出発点としては有効性があると思われます。

パネル討論

以上を踏まえて、登壇者によるパネル・ディスカッションが行われました。

金融機関にとってインパクトとは?

評価ガイドラインを取りまとめたポジティブ・インパクト・ファイナンス・タスクフォースのメンバーである安間匡明さんからは、タスクフォースにおける議論の紹介がありました。タスクフォースでは、インパクト評価に関する方法論を提示するだけで良いのか、むしろ金融機関自身がどのようにインパクトを追求していくかが重要ではないかという議論がなされたとのことです。これは、「そもそも金融機関とは何か?」という論点につながります。安間さんは、インパクト評価という手法が問題なのではなく、「金融機関のパーパスとインパクトをどう関連させるのか?」と言う観点から議論していくことが重要であるという問題提起がなされました。これは本質的な視点だと思われます。

求められる金融庁の役割

これを受けて、元金融庁総合政策局長の佐々木清隆さんから、金融庁の役割も変わる必要があるとの指摘がありました。これまで、金融庁は金融業界という狭いセクターの中でのみ仕事をしてきました。このため、環境、社会分野での資金ニーズや、投融資先がもたらすインパクトには配慮してこなかったというのが現状です。今回、環境省が環境分野における金融の役割に光を当てましたが、社会を見渡せば、教育、介護・福祉、医療、街づくり、国土開発、就労など様々なソーシャル分野での資金ニーズがあるはずです。こうした資金ニーズに対応するため、金融庁が、文部科学省、厚生労働省、国土交通省、内閣府などの現業官庁と協力して、金融行政をよりソーシャル・インパクトを追求する方向へと転換していくことが求められます。このために、金融庁自身が変革していく必要があるのではないかという問題提起は印象的でした。

問われる金融機関のパーパス

さらに、多摩大学社会的投資研究所副所長の堀内勉さんからは、金融の役割を見直す必要があるという問題提起がなされました。現状では、金融機関がインパクト・ファイナンスに参入する理由として、投資先企業におけるインパクト・ビジネスのための資金ニーズと、投資家がインパクト・ファイナンスのための投資ニーズの2つが挙げられます。しかし、これは外在的なものであって、金融機関に内在的なものではありません。本来、金融機関が自らの役割としてインパクト・ファイナンスを引き受けるべきではないか、というのが堀内さんの指摘でした。従来、金融機関は金融仲介業務を担う社会インフラとして特別の領域として扱われてきましたが、一民間企業としてのパーパスが問われているというコメントが印象的でした。

新たな企業報告に向けて

最後に、インパクト評価や企業統合報告の専門家である高木麻美さんからは、インパクト促進という観点からインパクト評価を捉え直すべきではないかとの指摘がありました。従来、インパクト評価は「インパクトの可視化」という観点から主に議論されてきましたが、ではその可視化を通じて企業価値がどのように向上するのか、現実問題として企業財務がどのように改善されるのかは議論の枠外でした。これを改め、財務価値と非財務価値を統合的に扱う新たな企業報告のあり方を検討すべきだというコメントは興味深かったです。

質疑応答

パネル討論の後の質疑応答においても、インパクト評価をするのはそもそも投資家なのか事業者なのか、またそのコストをどちらが負担するかなど、様々な議論がなされました。

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