第26回インパクト・サロン開催報告

2021年10月25日(月)、第26回インパクト・サロン「フィランソロピーの革新:日本における戦略的グラント・メイキングの新たな潮流」を開催したので報告します。今回は登壇者が5名と多いために通常より長い2時間のセミナーだったにもかかわらず、60名近い方に参加登録頂きました。改めて、ご多忙の中、登壇頂いたパネリストの皆様と参加者の皆様にお礼申し上げます。

グローバル・フィランソロピーの進化

セミナーでは、まず社会的投資研究所の小林主任研究員から、グローバル・フィランソロピーの発展と日本のフィランソロピーの現状について紹介がありました。

フィランソロピー自身は人類の歴史と共に存在してきましたが、20世紀に入り米国で専門的な助成財団が設立されたことでフィランソロピー2.0が登場します。これは、ただ寄付や資金支援をするだけでなく、成果の最大化を求めて専門的なプログラム・オフィサーが様々な非資金的支援を行う戦略的グラント・メイキングの考え方を基礎とします。これは1990年代までにはほぼ完成し、米国以外でも様々な財団が導入しています。さらに、21世紀に入り、インパクト投資が提案されると、インパクトの最大化を求めて助成だけでなく投資や様々なファイナンス・ツールを活用した手法がフィランソロピー3.0として発展しています。さらに、テクノロジーの発展により、クラウドファンディングや仮想通貨寄付などが登場することで、こうしたインパクト志向のフィランソロピーに一般の人たちが参加できるフィランソロピー4.0も登場しています。このように、グローバル・フィランソロピーは、資金提供手法もどんどん進化し、地理的にも米国から先進諸国へ、さらにアジア、中南米の新興国から現在はアフリカ・中近東に至るまで拡大し、大きく発展しています。

しかし残念ながら、日本のフィランソロピーはこのグローバルな発展から取り残されているように見えます。助成財団は設立数そのものが減少していますし、その内容も研究助成や奨学金が中心です。海外のダイナミックな発展ぶりと比較すると、停滞しているという印象を拭えません。他方、2019年に開始された休眠預金資金活用制度は、資金提供の目的に「社会課題の解決」、「担い手の組織基盤構築」、「社会課題に向けた環境整備」の3つを掲げ、資金支援だけでなく非資金的支援を組み合わせた「包括支援プログラム」を助成団体に求めており、これを契機として戦略的グラント・メイキングが日本においても普及・発展することが期待されます。

戦略的グラント・メイキングにおける主要支援戦略

セミナーでは、休眠預金資金活用制度の3つの目標に即して、戦略的グラント・メイキングの中で想定される9つの支援戦略についてもあわせて説明がありました。支援戦略は以下の通りです。

戦略的グラント・メイキングを超えたフィランソロピー手法の多様な発展

最後に、グローバル・フィランソロピーでは、さらに戦略的グラント・メイキングを超えて多様な手法が発展していることが紹介されました。

リープ共創基金のCash for Work

続いて、一般財団法人リープ共創基金代表理事の加藤徹生さんから「Cash for Workを通じて生活困窮者の生活再建を支援するー2億円×2回の助成プログラムから見えてきたものー」というタイトルで発表がありました。Cash for Workとは、巨大災害などで職を失った若者を最低賃金で雇用し、震災復興に関連した仕事をしてもらいながら、若者が次の就職に向けたスキル形成や訓練を行い、生活再建を支援しようというユニークなプログラムです。リープ共創基金は、このスキームを新型コロナウィルス感染拡大で生活が困窮している若者に適用することでCash for Workの新たな可能性を発展させようとしています。うまくいけば、中間的就労の事業化と言うことで、現在の日本が直面する生活困窮者支援にも拡大することが期待できます。

中国5県休眠預金活用コンソーシアムの連帯・協働支援

次に、広島NPOセンター・プロジェクトマネージャーの松村渉さんから「協働とネットワークで地域が直面する課題を解決する」というタイトルの発表がありました。松村さんが事務局を務める中国5県休眠預金活用コンソーシアムは、休眠預金を使って市民セクターが課題解決に取り組む能力を向上させるだけでなく、市民セクターの連携・協働の推進と、これを支える中間支援組織や市民活動支援センターなどの仕組みの構築も目指しています。この達成に向けて、事業支援だけでなく、連帯・協働支援や組織基盤構築支援も行っています。うまくいけば、戦略的グラント・メイキングを通じた地域課題の解決のモデルとなることが期待されます。

エティックのコレクティブ・インパクト支援

続いて、NPO法人エティックのソーシャル・イノベーション事業部プログラム・オフィサーの本木裕子さんから「子どもの未来のための協働促進助成事業」について紹介がありました。この事業は、様々な困難に直面している子供たちを支えるために、問題の「予防」、「早期発見」、「対応」が出来る地域や社会システムをマルチステークホルダーで共創し、連携して問題に取り組むのを支援しようという試みです。重視しているのはセクターを超えた連携で、コレクティブ・インパクトの創出を目指す点に特徴があります。この事業も、日本におけるコレクティブ・インパクト支援のモデル事業となることが期待されます。

日本国際交流センターの普及啓発・アドボカシー支援

最後に、日本国際交流センターのシニア・プログラム・オフィサーの李恵珍さんから、「普及啓発、アドボカシーを通じて外国ルーツ青少年を支える社会を目指す」というタイトルで、日本国際交流センターが推進している外国ルーツ青少年未来創造事業の紹介がありました。この事業は、外国ルーツの青少年が直面する様々な課題の解決に取り組もうという事業で、対象は日本語教育、キャリア形成、進学・就労支援など多岐にわたります。この事業の特徴は、従来、問題そのものが正確に認識されていなかった外国ルーツ青少年の問題について包括的な調査を行い、これに基づいて政府・自治体、企業、各種団体に協力や制度化を働きかける点にあります。課題の可視化と、これに基づく利害関係者への働きかけ、一般社会における認知度の向上などの取り組みは、まさに普及啓発、アドボカシー事業のモデルとなることが期待されます。

今後に向けて

それぞれの発表が終わった後、登壇者によるパネル討論を行いました。新たな支援戦略を採用するにあたっての期待と困難、事業のインパクトをどのように可視化するかという課題、こうした支援戦略をどのように導入していけば良いかについてのアドバイスなど、多岐にわたるテーマが取り上げられ、参加者も巻き込んで活発な議論が展開されました。

社会的投資研究所は、今後もこのようなフィランソロピーの動向や革新的な支援戦略に関するセミナーを適宜開催していきます。引き続きよろしくお願い申し上げます。

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