設立三周年記念シンポジウム開催報告

2月6日(月)にシンポジウム「新しい資本主義とファイナンスの革新」を開催しました。本シンポジウムには定員一杯の500名の方に参加登録頂きました。お忙しい中、シンポジウムにご登壇頂いた方々及びご参加頂いた方々に心よりお礼申し上げます。

基調講演「新しい資本主義とは?」

シンポジウムは、寺島実郎多摩大学学長の基調講演で始まりました。
資本主義の初期形態である「産業資本主義」が、冷戦を機に「金融資本主義」と「DX資本主義」へと発展していき、さらに中国などの「国家資本主義」が台頭するという現状を分析し、今後の資本主義のあり方を展望しました。
あわせて、資本主義がもたらす格差・貧困などの弊害に対応するため、ソーシャル・ファイナンスを社会工学の知見を動員して問題解決に向けた実践につなげていくべきだというコメントがありました。

セッション1「新しい資本主義と日本の新たな発展の方向性」

第一セッションでは、堀内勉副所長がモデレーターとなって「新しい資本主義と日本の新たな発展の方向性」をテーマに、「新しい資本主義実現会議」委員の翁百合さん、村上由美子さん、米良はるかさんをパネリストに迎えて議論しました。

日本の発展を考える上では、「人への投資」「起業家への投資」「イノベーションへの投資」が重要であり、同時に、貧困・格差などの問題に対応するためのセイフティネットの整備とNPOなどのソーシャル・セクターの強化が必要だという点で一致しました。また、ビジネスを通じた社会課題の解決への取り組みが重要との指摘もありました。

また、現在、注目を集めている斎藤幸平氏の「脱成長論」やピィーター・ティール氏の「加速主義」「超資本主義」についても議論しました。パネリストの多くは、「脱成長」では問題の解決にならず、現在、進展しているグリーン経済や循環経済への移行が現実的だろうという意見でした。また、「超資本主義」については、エリート主義で格差を肯定し、民主主義的価値にもそぐわないという否定的な意見が一般的でした。

セッション2「新しい資本主義を支える新たな金融システム」

第2セッションでは、佐々木清隆上席研究員がモデレーターとなって「新しい資本主義を支える新たな金融システム」をテーマに、実現会議委員の渋澤健さんと、早稲田大学の根本直子教授、金融庁の池田賢志チーフ・サステナブル・オフィサーをパネリストに招いて議論しました。

まず澁澤さんから、「新しい資本主義」は市場や競争を否定するものではなく、市場の外部不経済を定量的に評価した上でこれを内部化し、さらに社会課題に貢献しようという企業の社会・環境インパクトも非財務情報開示やインパクト会計などを通じて可視化することで、市場を活用しながら、現在の資本主義が直面する課題を解決していこうという取り組みであるとの説明がありました。

根本教授からは、現在の日本の金融機関はサステナブル投融資を急速に発展させてきており、新しい資本主義の実現に向けた金融機関の役割は重要だとの指摘がありました。その上で、非財務情報開示に向けたグローバルな基準作りに日本からも積極的に参画していくことが必要であり、また「誰1人取り残さない」という観点からは、非上場企業は中小企業の関与を確保することも重要であるとの指摘がありました。

池田さんからは、金融資本主義が高度に発展して飽和状態になる中、次のフロンティアとして社会・環境課題の解決という分野が注目を集めていると現状を分析した上で、この基礎となる外部不経済の内部化をどう進めていくかが最大のチャレンジだと指摘しました。この解決には、(1)社会・環境要因の影響をリスク・リターンに組み込んで投融資を決定する、(2)カーボン・プライシングのような形で外部不経済をリスク・リターンの枠組み内に制度化する、(3)インパクト計測フレームワークの導入を通じてポジティブ・インパクトとネガティブ・インパクトを可視化し、これが投融資の意思決定に反映されることを期待する(倫理的アプローチ)の3つの可能性があるだろうと整理しました。

次いで、新しい資本主義を支える金融の主体は誰かについて議論しました。ヘッジファンドなどの従来の金融規制外のプレイヤー、GAFAM、国家などの可能性がある中で、澁澤さんは、特定の主体を想定するのではなく、多様な主体がそれぞれの価値観に立って参加することが可能な開かれた制度設計を行うことが重要だと指摘しました。特定の価値観を優先するのではなく、多様な価値観を持ったプレイヤーが活動することが結果的に市場を活性化させるからです。根本教授は、特に個人の役割の重要性を指摘しました。クラウドファンディングやピア・トゥ・ピア投資が広がり、個人が自分の価値観にあった企業に投資するようになれば、経済の民主化につながるためです。池田さんは、資金提供側においても、両利き経営やパーパス経営が重要であり、長期的な視点に立ち、将来のイノベーションに投資する視点が求められると指摘しました。

質疑応答では、「新しい資本主義実現会議」の議論に対する質問が多く見られました。昨年、公開された緊急提言では「成長と分配」の議論が中心で、インパクト計測や非財務情報開示・会計などの制度面での議論が見られなかったのではないかとの指摘に対し、澁澤さんから検討に向けた勉強会が立ち上がる予定とのコメントがあったのが印象的でした。

なお、本シンポジウムを見逃した方のために、こちらのサイトで録画を配信しています。ご関心のある方、ぜひご覧下さい。

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