第28回インパクト・サロン開催報告

基調発表「インパクト企業の成長の形」

須藤奈応さんから、「インパクト企業成長の形」をテーマにした基調発表がありました。
社会・環境インパクトを追求するインパクト企業にとって、のぞましい企業成長の形は何でしょうか。これを考える上で以下の3つの論点が考えられます。

1. 社会・環境インパクトと経済的リターンとのトレードオフ問題

企業が社会・環境インパクトを追求する場合、どうしても社会・環境インパクトと経済的リターンととの関係を考える必要が出てきます。インパクト投資も投資である以上、投資家は投資の経済的リターンを求めます。社会・環境インパクトを重視する投資家もいれば、経済的リターンを重視する投資家もいます。インパクト企業は、こうした多様な投資家の意向を踏まえながら、社会・環境インパクトと経済的リターンのバランスを図らなければなりません。時には、どちらかを犠牲にしてどちらかを優先するという選択を迫られる場合も出てきます。
この問題に対する万能の解決策はありません。しかし、インパクト企業が望ましい成長を考えていく上では、投資選好が多様な投資家の存在、社会・環境インパクトを可視化する標準的なフレームワークが求められます。

2. 上場・M&Aとミッション・ドリフト問題

投資家はどこかのタイミングで投資資金を引き上げ、経済的リターンを確保します。このエグジットに際して、様々な問題が生じます。上場またはM&Aにあたり、インパクト投資家が懸念する最大の課題は、投資資金引き揚げ後もインパクト企業がミッション・ドリフトに陥らず、持続可能な形で社会・環境インパクトを維持していくことをいかに確保するかという点です。インパクト企業も企業である以上、上場やM&Aを行い、多様な投資家から資金を調達するようになれば、よりビジネスを成長させていくことを考えなければなりません。
この問題を解決するために、海外では、例えばIFCが提唱する「インパクト投資運用原則」に沿って投資家が「インパクトの持続性への影響を考慮しながら、エグジットを実行する」ことを促したり、インパクト企業がミッションを守れるようPublic Benefit Corporationのステイタスを取得したりする事例が見られます。また、インパクト志向の強い投資家とインパクト企業をマッチングする相対市場を創設したり、多様な投資家から資金を調達するコミュニティ・エグジットなどの手法も発展しています。

3. 日本の課題

では、日本でインパクト投資を発展させていくためには何が求められるでしょうか。須藤さんは、「ダイバーシティ」の重要性を指摘します。
トレードオフ問題でも議論がありましたが、多様なリスク・リターン選好を持つ投資家の存在が、インパクト投資の発展には不可欠です。また、そのためには社会・環境インパクトの可視化も必要です。さらに、メインストリームの金融機関とインパクト投資との間の人材の流動性を高める必要もあるでしょう。日本のインパクト投資はまだ発展途上にありますが、日本がもつ高い技術と資金力を考えれば、適切なエコシステム設計によりさらに発展することが期待されます。

パネル討論

基調発表を踏まえ、パネル討論を行いました。

インパクト・デュー・ディリジェンスとインパクトIPO

まず、子育て支援ファンドとはたらくFundという二つのインパク投資ファンドを立ち上げた新生企業投資の高塚さんから、インパクト投資における投資選定基準やデューディリジェンスのあり方について紹介がありました。
インパクト投資ファンドにおけるデュー・ディリジェンスは、基本事項のレビューや事業計画の検証、投資シナリオの設定に加えて、社会性の検証が必要です。その際には、社会課題の喫緊性や重要性(マテリアリティ)、ファンドのToCとの整合性、受益者の特定、ロジックモデル、インパクト計測指標の設計、組織評価などの多様な視点が求められます。
その上で、高塚さんからは、インパクト投資ファンドの場合、 投資家から資金を調達して投資し、リターンを投資家に還元しなければならないという性格上、事業性がない案件はデュー・ディリジェンスの際にはねられるとの指摘がありました。インパクト投資ファンドの場合、経済的リターンと社会・環境インパクトがウィン・ウィンになるものが投資先として選定されるわけですから。トレードオフの問題は発生しないということでしょう。
また、上場・M&Aについても、インパクトIPOという考え方を導入しているとの説明がありました。インパクトIPOは、「インパクト企業がIMM(インパクト測定&マネジメント)を適切に実施しながらIPOを実現すること」と定義されます。この成立の鍵を握るのが、(1)インパクト創出意図、(2)IMMの運用、そして(3)インパクト志向の資金提供者からの資金調達です。エコシステムの観点からは、特に(3)が重要だとの指摘がありました。

ゼブラ企業:インパクト企業のオルタナティブ

続いて、Zebras & Companyを立ち上げた田淵さんから、ゼブラ企業についての紹介がありました。ゼブラ企業とは「ユニコーン」と呼ばれる急成長型スタート・アップ企業のオルタナティブとして提案された考え方です。特徴としては、以下の4つが挙げられます。

  1. 事業成長を通じて、よりよい社会を作ることを目的としている。
  2. 時間、クリエイティブ、コミュニティなど、多様な力を組み合わせる必要がある。
  3. 長期的でインクルーシブな経営姿勢である。
  4. ビジョンが共有され、行動と一貫性が取れている。

ゼブラ企業への投資は、通常のVCのように3〜5年で上場・M&Aを目指すのではなく、より中長期的に成長資金を提供するところに特徴があります。また、エグジット戦略も、IPOやM&Aにとどまらず、自社株買いやレベニュー・シェアなどの多様な手法を導入しています。このような配慮を通じて、インパクト企業が陥りやすい社会・環境インパクトと経済リターンのトレード・オフ問題や、エグジット時のミッション・ドリフトの問題を回避していると言えるでしょう。

総括

以上を踏まえて、日本におけるインパクト投資の望ましいあり方について議論しました。基調発表で須藤さんから指摘があったとおり、やはり「多様性」が最も重要なポイントだというのが一致した意見でした。インパクトを目指す投資家から、経済的リターンを追求する投資家までの多様なプレイヤーがインパクト投資に参入することで、市場は活性化します。投資家だけでなく、投資手法の多様性も重要です。IPOやM&Aを目指すエクイティ投資だけでなく、レベニュー・シェア、自社株買い、コミュニティ・エグジット、さらにクラウドファンディングなどの多様な手法の開発が求められます。さらにユニコーンだけでなく、ゼブラ型の企業成長を受け入れることも重要です。社会課題の特徴に応じ、市場、政策、規制、テクノロジーや投資先企業のミッション・戦略に柔軟に対応していくことで、ダイナミックなインパクト投資のエコシステムが形成されることが期待されます。

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