第29回インパクト・サロン開催報告

3月8日(火)、第29回インパクト・サロン「ソーシャル・ファイナンスの地域エコシステム:京都信用金庫の挑戦」を開催しました。お陰様で80名以上の方々に参加申込みを頂き、充実した議論を展開することが出来ました。お忙しい中、貴重な時間を割いて発表を行って頂いた登壇者の皆様、及び参加頂いた皆様に心からお礼申し上げます。

基調講演「未来を拓く地域金融」

サロンは、京都信用金庫の榊田理事長の基調講演から始まりました。

榊田理事長は、金融機関に求められる役割として、従来の決済機能や仲介機能だけでなく、個人に対するくらしの相談、企業に対する事業の相談、そして地域社会における課題の解決と言った「親切な関与」が求められる時代へと変化したとしたと指摘します。こうした大きな時代の変化の中では、個人も企業も地域社会も金融機関も変わる必要があります。こうした時代のキーワードが「インパクト志向」です。経済成長だけでなく、社会や環境へのインパクトをそれぞれのプレイヤーが考え、行動する時代となりました。

では、このような時代における地域金融機関の役割は何でしょうか。榊田理事長は、信用金庫の基本的な役割は「金融包摂」だとした上で、4つのSの重要性を指摘します。財務内容に問題がある「スランプ(経営支援)先」、信用がまだない「スタートアップ(創業)先」、規模が小さくて金融機関から軽視されがちな「スモール(小規模事業)先」、そして、社会課題の解決に取り組む「ソーシャル企業」です。こうした企業をターゲットにするため、地域金融機関は「おせっかいバンカー」となって投資先に親身に対応し、さらに地域ぐるみでソーシャルな社会を目指す取り組みの核となる役割を果たすことが求められます。

こうした観点から、京都信用金庫は、龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターと協力してソーシャル企業認証制度である「S認証」を立ち上げ、この認証を取得した企業への投融資を進めています。10年後には融資先の80%をこのS認証取得企業とすることで、地域の社会課題解決能力を飛躍的に向上することを目指します。

また、預金者と事業者がソーシャルな関係でつながることも重要です。このため、預金者の資金がS認証企業に使われる「ソーシャル・グッド預金」を立ち上げました。預金者は、安心できる地域づくりや文化の保存継承、医療・福祉、教育、環境、働き方などの分野で社会課題の解決に取り組む企業に自分たちの預金が使われることで、地域の社会課題解決に参加することが出来ます。

このように、地域の社会課題解決に取り組む京都信用金庫ですが、一金融機関の活動だけでは限界があります。さらに地域における社会課題解決に取り組むためには多様なプレイヤーとの連携が必要となります。このため、榊田理事長の基調講演に引き続いて、京都信用金庫と緊密な協力関係にある3つの機関から事例を紹介頂きました。

事例発表1
「フューチャー・ベンチャー・キャピタル:地域企業のイノベーションと海外進出を加速させる」

フューチャーベンチャーキャピタル(FVC)の松本代表取締役は、従来のベンチャーキャピタルとはひと味ことなる地方創生ファンドの発展に取り組んでいます。

地方創生ファンドとは、従来のベンチャーキャピタルとは異なり、必ずしもIPOやM&Aに出口戦略を限定せず、地域における創業率の向上や域内経済の活性化を実現するために多様な資金提供や支援を行う点に特徴があります。地方創生ファンドは地域金融機関からの出資金で投資を行います。出口戦略は、自社株買いや社債償還などを使うことで、地域企業の経営改善や事業承継へと繋いでいきます。中長期的な観点から持続可能な形で地域コミュニティを支える企業を育成していこうというアプローチです。

現在、FVCは日本全国に35本の地方創生ファンドを設立しています。京都では、5本のファンドを立ち上げ、京都信用金庫とは、「WAOJE海外進出支援基金」、「京都イノベーションCファンド」、「京都イノベーションC2号ファンド」の3つのファンドを運営しています。興味深いのは、京都イノベーションCファンドを立ち上げた後、2号ファンドでは京都信用組合が新たに京信ソーシャルキャピタルという子会社を設立し、無限責任組合としてファンドに参加したことです。これにより、京都信用金庫がより積極的にファンドに取り組むことが可能になりました。さらにFVCは、WAOJE海外進出支援基金を通じて、中小企業の海外進出にも支援を行っています。

事例発表2「taliki:社会課題解決に取り組むスタートアップ支援」

talikiの中村代表取締役は、「社会課題を解決する人をエンパワーする」をミッションとする株式会社talikiを設立しました。talikiは、「社会課題がいつでも解決される社会構造」の構築を目指して、社会起業家育成プログラム、投資・オープンイノベーション、オウンドメディア/DBの3つの領域でビジネスを展開しています。

社会起業家育成プログラムでは、伴走支援や、先輩経営者と若手コミュニティ内での集合知の拡大支援を通じて、これまでに190の事業を支援してきました。その対象領域は、フードロス、LGBTQ、貧困家庭の教育、障害者支援など多岐にわたります。中には、ビーガンサイト運営事業が立ち上げから2年間で毎月11万名のアクセス、インスタグラムへの5.3万人のフォロワー獲得、レシピ本1万部突破など、短期間でのスケールアップに成功した事例も見られます。

オープン・イノベーションの分野では、大手企業と社会起業家をつないだ事業開発を行ってきました。提携企業には阪急阪神ホールディングスや丸井グループなどの大手企業が名を連ねています。さらにここで事業開発に成功した社会起業家には、ヴェンチャー・キャピタルの提供を通じてより事業を拡大することを支援しています。

最後に、オウンドメディアでは、taliki.org というウェブメディアと社会起業家のデータベースを構築することで、彼らの認知度向上・販路拡大を目指すと共に、起業家同士のマッチングやソーシングなどを推進しています。こうした試みを通じて、社会課題解決に向けたプラットフォームが形成されていると言えるでしょう。

京都信用金庫は、このtalikiが運営しているtalikiファンドに出資しており、社会起業家の成長に貢献しています。

事例発表3「ローカルインパクトと地域金融〜ソーシャル企業認証の取り組み」

最後に、Plus social株式会社などを通じて長年にわたり持続可能な者会づくりに必要なエコシステムの構築に取り組んできた龍谷大学政策学部の深尾教授から、ソーシャル認証制度についての紹介がありました。

ソーシャル認証制度は、深尾教授が副所長を務める龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターが開発したものです。その目的は、社会課題の解決やESG経営を目指す企業に対し、経営方針や事業内容、社会的インパクトなどを基準に評価、認証を行うことにあります。この結果は、金融機関が行う企業の格付けや融資などに反映することが想定されています。さらに将来的には、ソーシャル認定企業のコミュニティ形成なども視野に入れています。

S認証は2020年12月に発表され、その後、1年間で申請件数720件、認証件数481件と急速に普及しています。京都信用金庫は、榊田理事長の基調講演でも言及されていたように、企業への投融資の際にS認証を参照したり、またソーシャル・グッド預金を通じて預金者と事業者をつなぐ試みを構想するなど、S認証の活用に積極的に取り組んでいます。

パネル討論「ソーシャル・ファイナンスの地域エコシステムの可能性」

発表を受け、多摩大学社会的投資研究所の小林主任研究員のモデレートにより、パネル討論を行いました。

京都モデルの他地域への展開可能性

まず、小林主任研究員より、これまでの議論のキーワードとして以下の整理がありました。

これらのキーワードは、登壇者全員の共通認識であり、さらに京都におけるソーシャル・ファイナンスの地域エコシステム発展の原動力ともなっています。では、なぜこのような共通認識が成立し、エコシステムが発展したのか。「やってみなはれ」というリスクをいとわずに挑戦者を支援する精神、濃密な人間関係、京都という町が持つ固有の文化や歴史など、様々なポイントが指摘されました。こうした要素は、京都に独自のもので他の地域が簡単に導入できるものではありません。

では、他の地域がソーシャル・ファイナンスの地域エコシステムを発展させて行くには何が求められるのか。登壇者の多くが指摘するのは、第一に人の重要性です。どんなに制度や枠組みを作っても、これを動かし、一つにまとめ上げていくのは人の力です。ビジョンと熱意を持った金融パーソンが、地域エコシステムの構築に向けて他の人たちを巻き込んでいき、それを地域全体で応援することが求められます。第二に、地域に固有の文化や歴史、あるいは商慣行や人間関係を重視することです。京都のエコシステム発展の背景に伝統や文化があったように、日本の各地にはそれぞれの文化や歴史があります。これを活用しながら、各地に独自のエコシステムを構築していくことが求められます。

政府や政策金融の役割

次いで、小林主任研究員より、求められるエコシステムと政府・政策金融などの外部リソースの役割について以下の図画提示されました。

ソーシャル・ファイナンスの地域エコシステムを構築するには、地域の金融機関や事業者だけでなk、政府の政策や規制、政策金融機関の関与など多様なプレイヤーの参画が必要です。では、こうした地域外部のプレイヤーにはどのような役割が求められているのでしょうか。

登壇者の多くが指摘したのは、政策金融機関こそが積極的にリスクを引き受けることが重要で、これによって初めて民間金融機関の積極的な投融資が可能になるという点でした。インパクト投資の世界ではブレンディド・ファイナンスとして定着しているように、公的資金がリスクを積極的に引き受けてストラクチャード・ファイナンスを組成し、これに民間資金が参加することで、大規模な資金調達が可能となります。これを進めていく上での政策金融機関の意識改革や制度の変革などが必要だという点で登壇者の意見は一致しました。

グローバルな動向

最後に、小林主任研究員より、現在、ソーシャル・ファイナンスの領域においては、「Place-based Impact Investing(地域に根ざしたインパクト投資)」が注目を集めており、これまでのスケールアップ一辺倒の投資から、より地域のニーズに対応し、持続可能な形で地域の社会課題解決と経済活性化を目指す投資へのシフトが見られるという指摘がありました。京都信用金庫が推進するソーシャル・ファイナンスの地域エコシステムは、こうしたグローバルな動向とも連動するものとして注目されます。

また、米国では、バイデン政権の登場に伴い、「新しいサプライサイド・エコノミー」が議論されています。「サプライサイド・エコノミー」は1980年代にレーガン政権が提唱したもので、それまでの福祉国家が進めてきたケインズ型の有効需要創出政策を否定し、減税と金融緩和による資金供給の増大を通じて経済を発展させようという考え方です。この考え方は新自由主義政策と結びついていたため、これまで否定的に語られることが多かったのですが、バイデン政権は、インフラ整備やクリーン・テクノロジー、循環社会への転換などに公的資金を積極的に投入することで新たな経済を創出し、成長へとつなげていくという「新しいサプライサイド・エコノミー」を推進しています。小林主任研究員は、ソーシャル・ファイナンスの地域エコシステムの発展における政策金融機関の役割を巡る指摘は、こうした米国での政策転換とも連動していると指摘しました。

京都で進展するソーシャル・ファイナンスの地域エコシステム構築の試みは、このような形でグローバルなソーシャル・ファイナンスの潮流とも密接に関係しています。

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