第30回インパクト・サロン報告

第30回インパクト・サロンは、40名以上の方に参加登録を頂き、充実した議論を行うことが出来ました。お忙しい中、ご登壇頂いた塚田さんをはじめとして、ご参加頂いた皆さん、本当にありがとうございました。以下、概要を報告します。

なぜ今、「社会的インパクトと不動産投資」なのか?

はじめに、社会的投資研究所の小林主任研究員から、セミナーの趣旨について説明がありました。

不動産分野は、セクターの規模が大きく関連産業の裾野が広いので、地球環境や社会に対して大きな影響があります。このため、不動産投資分野で社会的インパクトを追求すれば、SDGs目標を中心にグローバル・コミュニティが直面する社会課題の解決に大きく貢献できます。例えば、ビル・建築分野だけを取っても、全世界のエネルギー消費の35%、二酸化炭素排出量の38%を占めています。仮にこの分野での省エネ、グリーン化、二酸化炭素排出削減が進めば、地球温暖化問題が劇的に改善されることが期待できるわけです。

不動産分野の社会・環境インパクトは、地球温暖化問題だけにとどまらず、以下のスライドのように多岐にわたっています。不動産投資分野における社会的インパクトの重要性がお分かり頂けると思います。

責任不動産ビジネスの発展

この点に着目して、国連グローバル・コンパクトは「責任ある不動産ビジネス」を提唱しています。SDGs目標を達成するために、不動産ビジネスの社会的責任を明確化し、すべての不動産ビジネスがこれを遵守することで地球環境とグローバル・コミュニティに対するネガティブなインパクトを抑制し、ポジティブなインパクトを促進していこうという考え方です。

「責任ある不動産ビジネス」が目指すのは、多様なSDGs目標の中でも、特に国連グローバル・コンパクトが重視する「人権」、「労働」、「環境」、「反腐敗」の4つの領域を中心とします。しかし、それだけに限定されず、以下のようなビジネスの様々な局面を通じて社会的インパクトを追求しています。

社会的インパクトを追求する不動産投資

このような責任不動産投資を発展させていくためには、社会的インパクトを追求する不動産投資が不可欠です。この分野では、すでに、ネガティブ・インパクトを抑制する責任投資と、ポジティブ・インパクトを促進するポジティブ・インパクト・ファイナンスがそれぞれ提案されています。

責任投資については、国連責任投資原則(PRI)が「不動産における責任投資」として整理しています。これまでPRIが推進してきた責任投資の考え方を不動産に適用したものです。「ディール・ソーシング」、「投資判断」、「オーナーシップ」、「売却」の4つのフェーズのそれぞれに責任投資の考え方を取り入れています。

ポジティブ・インパクト・ファイナンスについては、国連環境計画(UNEP)が「ポジティブ・インパクト不動産投資」の考え方を提案しています。「インパクトの明確化」、「市場水準及びサステナブルなリターン」、「インパクト計測」、「追加の資金/インパクト」の4つの基本原則に基づいて、不動産ビジネスに係る様々なテーマへの投資を推奨しています。

不動産分野の社会課題分野における評価項目について

以上のイントロダクションを踏まえて、国土交通省の塚田企画専門官から、「不動産分野の社会課題分野における評価項目」についての説明がありました。

これは、国土交通省が設置した「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会」が今年3月に中間とりまとめとして公表したものです。投資家と不動産事業者の双方に社会的課題についての共通理解を形成し、最終的にESG評価に反映させることで、不動産分野における社会的インパクト追求の試みを促進しようというイニシアチブです。

塚田企画専門官からは、検討会の設立経緯やこれまでの議論の整理などがまず紹介されました。整理にあたっての基本的な考え方は以下の通りとのことです。

その上で、塚田企画専門官から、様々な不動産関連評価制度の紹介や、不動産分野における社会課題に対応した取り組み事例の紹介がありました。金融機関、事業者のそれぞれが既に多岐にわたる社会課題解決への取り組みを行っていることが実感できました。

これを踏まえて、塚田企画専門官より、不動産分野における社会課題分野へのインパクトと、その評価項目の整理についての説明がありました。不動産は、快適で利便性の高い生活・職場環境の実現だけでなく、防災・減災、地域の社会・経済・文化の活性化、多様性・包摂性の実現、少子高齢化への対応等、現在の日本が直面する様々な社会課題の解決に大きく貢献しており、社会性評価項目の整理により、これが可視化され、さらに投資資金を呼び込む形で発展する好循環が生み出されることが期待されます。

以上はイメージですが、報告では、それぞれについて、詳細なテーマ、評価分野、評価項目が提示され、さらに各項目に対応するSDGゴールやインパクト・レーダーのカテゴリーなども説明がありました。これだけで、様々なビジネスや投資に活用できそうです。

塚田企画専門官によると、今回の中間整理を踏まえ、2022年度には具体的にインパクト評価方法の検討を行うとのことです。これにより、不動産分野における社会的インパクトの取り組みが一層推進されることが期待されます。

社会的投資研究所では、不動産投資分野におけるインパクト評価手法の開発にも積極的に取り組んでいきます。引き続きよろしくお願い申し上げます。

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