第31回インパクト・サロン開催報告

5月21日(土)に「英国社会的インパクト投資の現在:休眠資産活用法の成立とビッグ・ソサエティ・キャピタルの野心的プラン」をテーマにセミナーを開催しました。登壇者は、ビッグ・ソサエティ・キャピタルで働く唯一の日本人の五十嵐剛志さんと、社会的投資研究の小林立明主任研究員です。

当日は、70名以上の方にお申し込み頂きました。やはり英国の状況に対する関心は高いことが分かります。また、質問も活発に行われ、予定を大幅に超えて7時40分近くまで登壇者と参加者の間で議論がなされました。ご多忙のところ、貴重な時間を割いて英国から参加してくれた五十嵐さんと、土曜日にもかかわらず、セミナーに登録頂いた参加者に皆さんに改めてお礼申し上げます。

英国の社会的インパクト投資市場の規模と特徴

セミナーでは、まず小林主任研究員より、英国の社会的インパクト投資の現状についての報告がありました。

英国の社会的インパクト投資市場の規模は約64億ポンドと推定されます。2011年から8倍増となっており、近年、飛躍的に発展してきたことが分かります。英国の社会的インパクト投資市場は「ソーシャル・レンディング」、「社会的不動産」、「成果連動型資金提供」、「インパクト・ベンチャー」の4つの領域がありますが、「ソーシャル・レンディング」と「社会的不動産」の割合が高く、日本で注目されている「インパクト・ベンチャー」や「成果連動型資金提供」の割合は低いという点に特徴があります。

インパクト投資も580億ポンドと推計されています。これはグローバルなインパクト投資市場の3.3%から8%になります。英国のインパクト投資市場の重要性が伺えます。また、英国のインパクト投資の特徴として、貧困層や障害者、女性、子ども・若者、失業者、高齢者、移民・難民、出所者などの社会的弱者や困難を抱える人たちをターゲットにしたものが中心であるという点も挙げられます。これは、中間層をターゲットにした医療・保健・介護や環境・循環経済などの成長戦略を軸とする日本と異なる特徴だと考えられます。

休眠預金活用から休眠資産活用へ

英国の社会的インパクト投資の大きな動きとしては、2022年2月の休眠資産活用法の成立があります。これまでの銀行の休眠預金の活用だけでなく、保険会社、年金基金、投資・資産運用会社、証券会社などの金融機関に眠る休眠資産の資金を社会課題の解決に活用しようという法律です。これにより新たに8億8000万ポンドの資金が利用可能となります。

英国では、休眠資産の活用に向けて、今後、パブリック・コンサルテーションが行われる予定です。基本的には、困難を抱える子ども・若者支援と地域格差是正という二つの課題領域が中心となりますが、どのような革新的な試みが立ち上がるか、注目されます。

英国の社会的インパクト投資を巡る議論

さらに近年、英国では、地域重視型インパクト投資、多様性・平等・包摂(DEI)に配慮したインパクト投資についての議論が積極的に進められており、また社会的企業の資金ニーズに応じた革新的な資金提供手法の開発も進められています。

地域重視型インパクト投資(Place-based Impact Investing)とは、地域格差の是正のためにインパクト投資を活用しようとい議論から生まれた考え方です。特定の地域が直面する社会課題を解決するために、地域の年金基金や共済組合などの資金をインパクト投資に活用できないかという議論が積極的に進められています。こうした考え方は、人口減少社会の下、地域の再生・活性化が重要な課題となっている日本にも参考になると思われます。

また、多様性・平等・包摂(DEI)についても、社会的インパクト投資がこれまで十分に配慮してこなかった女性、マイノリティ・グループ、移民・難民などに積極的に投資しようといういう議論が進められています。このための「ジェンダー・レンズ」や「LGBTQ+レンズ」などの投資手法が導入されています。さらに、投資の意思決定や投資ファンドの組織・文化などにも、こうした多様性・平等・包摂(DEI)の考え方を導入しようという試みも進められています。

ビッグ・ソサエティ・キャピタルの活動と2025年戦略

これを受け、五十嵐さんからは、ビッグ・ソサエティ・キャピタルの活動の紹介がありました。

言うまでもなく、ビッグ・ソサエティ・キャピタルは、英国における社会的インパクト投資の鍵を握る重要な機関です。休眠預金資金を活用し、資金仲介団体に資金を提供することで、社会的インパクト投資市場の基盤整備の役割を担っています。それだけでなく、ソーシャル・セクター・エンゲージメントも積極的に進めており、グッド・ファイナンスという組織を通じて社会的企業と社会的インパクト投資家のマッチングを図ったり、社会的投資減税の政策キャンペーンを行ったりと、様々な取り組みを行っています。

さらにビッグ・ソサエティ・キャピタルは、2025年までに社会的インパクト投資の市場を100〜150億ポンドに拡大するという野心的プランを公表しています。このために社会的インパクト投資のエコシステム構築をさらに推進していくとのことです。

日本への示唆

五十嵐さんからは、ビッグ・ソサエティ・キャピタルでの勤務経験を踏まえて、日本の社会的インパクト投資の推進に向けた意見を共有してくれました。あくまでも個人的な意見という前置きで、五十嵐さんが日本の休眠預金制度で今後検討すべき課題としてあげたポイントは以下の5点です。

  • 社会的投資市場の発展を重要な成果指標の一つに
  • 指定活用団体については、助成を担う団体とインパクト投資を担う団体を分ける
  • 社会的企業や投資家へのエンゲージメントを重視する
  • 休眠預金等から休眠資産(保険、証券、年金等)へ対象を拡大する
  • 政府からの独立性を高める

こうした意見は、今後の日本における休眠預金資金活用の見直しにおいて示唆に富むと思われます。

社会的投資研究所は、今後も、英国を中心に海外の社会的インパクト投資の動向を紹介していきます。引き続きよろしくお願い申し上げます。

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