第32回インパクト・サロン開催報告

6月27日(月)、第32回インパクト・サロンを開催しました。

セミナーには75名の方に参加申し込みを頂き充実した議論を行うことが出来ました。ご多忙の中、セミナーにご登壇頂いた保田先生、堀内先生、そして参加者の皆さんに改めてお礼申し上げます。

なぜESG財務戦略なのか?

冒頭、保田先生から今回のテーマを選んだ理由について説明がありました。

保田先生の最大の問題意識は、「日本企業を強くするにはどうすれば良いか」にあります。日本企業の配当性向は欧米諸国に比べて低く、内部留保が大きい点に特徴があります。この結果、成熟産業がマネーを配当に回し、投資家がその資金を成長企業に再投資することで、国全体として成長産業にマネーが回って新たな産業が創造されるという、本来あるべきマネー循環が目詰まりを起こしています。実際、日本の上場企業の時価総額の伸びは欧米に比べて圧倒的に低いのが現状です。

ではどうすればよいのか?現在、ESGに対する関心が高まっており、企業を取り巻く環境がESGを軸に変化しつつあります。これをゲームチェンジャーに使って日本企業が成長し、最終的に国全体でマネー循環が伸びていくよう変革することが出来ないか。これが今回のテーマの基本趣旨となります。

企業はどのように「ESGスコア」と向き合うべきか?

言うまでもなく、ESG投資とは、財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資です。この投資が、近年、大きな関心を集めている理由は幾つかあります。

  • グローバル金融機関の多くが署名している国連責任投資原則(PRI)において、「投資分析と意志決定プロセスにESG課題を組み込む」、「資産保有にESG課題を組み込む」、「投資対象にESG課題についての適切か開示を求める」ことが明記されており、機関投資家はこれに従って投資活動を行っている。
  • 環境活動家のグレタさんの呼びかけに多くの若者が賛同したように、ESG課題に対する一般の関心が高まっている。

このような状況では、ESG投資が拡大することはある意味で必然であると言えるでしょう。企業がESG情報を積極的に開示し、機関投資家の資金を調達していくことが求められます。しかし、日本企業は、ESG情報の開示を自覚的に行っていない印象があります。例えば、日本企業がしっかり環境対応を行っているにもかかわらず、積極的に情報開示をしていない例として、以下のようなものが考えられます。

  • 節水や水の再利用
  • 商品パッケージにリサイクル素材を活用したり、プラスチック素材を他の廃棄可能な素材に転換
  • 商品の再利用可能性

日本企業は、このような指標についての情報開示を行わないために、ESG評価機関から評価されず、結果的にESGスコアが低くなっているのが現実です。言い換えれば、日本企業にまず求められることは、現状を見直し、ESG評価の対象となる情報開示をしっかり行ってESGスコアを上げることだと言えます。

ダイバーシティの重要性

さらに日本企業の取り組みが遅れている領域として、ESGのS(社会)部分があります。Sの要因には様々なものがありますが、特に重要なポイントは、ダイバーシティ(多様性)です。日本社会は、同質性が高く、企業も男性中心のため、女性の社会進出などダイバーシティが進んでいません。また、障害者や若い世代の働き手、子育て世帯などのインクルージョン(包摂)にも問題があります。

他方、グローバルな研究の蓄積によると、ダイバーシティとインクルージョンを積極的に推進している企業は、成長力が高く、イノベーションも起こりやすいことが実証されています。ダイバーシティとインクルージョンは、企業成長とイノベーションのドライバーなのです。さらに、日本では意識されていませんが、ESG投資では、ダイベストメントやエンゲージメント&議決権行使も重要な役割を果たしています。日本企業が。女性の登用をはじめとしたダイバーシティ&インクルージョンに後ろ向きであれば、将来的にはこの点からダイベストメントの対象になるリスクも考慮する必要があります。

グローバル企業から日本企業が学ぶこと

以上を踏まえて、ESG経営における先進事例として、シスコシステムズとネスレの紹介がありました。

シスコシステムズは、もともとIT・ネットワーク機器の製造会社でした。しかし、過去10年間、M&Aを積極的に行い、インフラ基盤やアプリケーション、セキュリティなどの新規産業を積極的に取り込んできました。その際には、ESGスコアに配慮し、クリーンテクノロジー、プライバシーとデータセキュリティ、人的資本開発などのポジティブ・インパクト分野の事業を導入することでESGスコアを高めることにも成功しています。特にシスコは、社会分野である人的資本開発、サプライチェーンと労働管理、プライバシー&データセキュリティ、紛争メタル(原材料調達)分野を重視し、ESGスコアの半分以上のウェイトをここにあてています。この分野でのスコアが業界平均を大きく上回っていることが、シスコの高いESGスコアを支え、さらにそれが企業価値の向上とも連動しているという好循環が読み取れます。

これに対して、ネスレは商品パッケージ素材、責任ある原材料調達、健康市場の機会、ガバナンス、水資源保全、製造過程における二酸化炭素排出量削減などに配慮することで、ESGスコアを高めています。また、従業員への投資を重視し、退職率約5%、退職時の平均勤続年数27年という高いスコアを出しています。ネスレは、一貫して働きやすい環境作りを目指しており、ハラスメントのない環境作りやダイバーシティ&インクルージョンを早い段階から推進してきました。このため、社員の平均勤続年数が長くても、組織や事業が硬直化せず、高い成長とESGスコアを実現してきたことが読み取れます。

ESG/SDGs時代の「人的資本経営」のあり方

このように見てくると、日本企業の望ましいあり方が見えてきます。それは、ダイバーシティ&インクルージョンを積極的に推進することです。

ここで言うダイバーシティには、性別や人種だけでなく、年齢、国籍、障害の有無なども含まれます。また、職務、教育、知識、経験、考え方、性的指向などの多様性も配慮すべきでしょう。こうした多様な人々を受入、彼らが働きやすい職場環境を提供することでインクルージョンを推進すれば、心理的安定性が増し、結果的に職場に対する満足度や離職率の低下に繋がります。それはまた企業の成長やイノベーションの原動力にもなります。

この際に留意する点は、社外取締役の女性比率を高めるというような外形的な整備だけでなく、システム、文化、行動の3つのレベルで組織変革を推進することです。この3つのレベルの変化は相乗効果があり、互いに影響し合いつつ組織全体の変革につながっていくことが期待されます。

残念ながら、日本企業はいまだに設備投資を重視しています。しかし、グローバルな機関投資家は、企業の中長期的な投資・財務戦略として人的資本の投資を重視しています。日本企業は、この点を自覚し、人的資本の投資、特にダイバーシティ&インクルージョンに配慮した組織変革を推進し、この成果を積極的に情報開示していくことが求められます。

基調講演の保田隆明教授

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