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【特別セミナー開催報告】

小林 立明 | 2019.10.27


24日(木)、特別セミナー「SDGs達成に向けたCSVの推進とソーシャル・ファイナンス」を開催いたしました。多くの方々にご参加いただき、活発な議論が展開されました。参加いただいた方々に深くお礼申し上げます。

CSVを通じたアプローチ

セミナーでは、まずFSGアジア太平洋地域責任者のリシ・アガワルさんから、「市場活用型アプローチによる水衛生(WASH)課題の解決」についての基調講演がなされました。言うまでもなく、FSGは、CSVにより、企業が本業を通じて社会的課題に取り組むことを推進しています。CSVは、単なる社会貢献やCSR活動ではありません。CSVは、企業が本業を通じてスケールの大きな社会課題の解決を行う点に特徴があります。さらに、CSVによって、企業自身がイノベーションと新たなマーケットの開拓を通じて競争力を強化し、さらに自社のブランド力を高めることも可能となります。

その上で、アガワルさんより、このCSVアプローチをWASH(水衛生)分野に適用した事例の紹介がありました。現在、全世界で45億人が使うトイレが安全に管理されておらず、23億人はいまだに基本的なトイレを使えていないと言う現状があります。また、飲料水についても、21億人が管理された飲料水を入手することができず、8.4億人はいまだに基本的なサービスを受けることができていません。このように、水と衛生の問題は、深刻な問題であるにもかかわらず、多くの人々が最低限のサービスを利用できていないと言う現実があります。この結果、感染症リスクが高まり、また水を確保するために長時間の水汲み労働が発生するなどにより、教育の機会が低下し、生産性が低下すると言う恒常的な問題が発生しています。WASHは、グローバルな持続可能な開発という目標を達成するためには優先的に取り組むべき課題ですが、その対象はあまりにも膨大です。

このような大きな問題に取組むためには、従来のODAやフィランソロピーだけでは十分ではありません。民間資金を使い、ビジネスの手法を取り入れたCSVによる市場活用型アプローチが求められます。では、どのように市場活用型アプローチを立ち上げるのか。キーワードは、「商品や市場の再検討」「バリューチェーンの生産性の再定義」「地域クラスターの強化」です。アガワルさんから、それぞれの手法について説明があり、その上で、Lixil社のSatoトイレットやWaterhealth社の水道キオスク、Jain灌漑システムなどの具体例の紹介がありました。

社会変革に不可欠なコレクティブ・インパクト

さらにアガワルさんは、こうしたCSVが社会変革へとつながっていくためには、システミックな視点が必要であり、そのためにはコレクティブ・インパクトのアプローチが重要であるという指摘がありました。コレクティブ・インパクトとは、「特定の大規模な社会課題を解決するために共通アジェンダを設定し、多様なセクターのキー・プレイヤーたちがこれに積極的にコミットしていくこと」と定義されます。言い換えれば、政府・国際機関やビジネス、NPO/NGO、コミュニテイなどの多様なプレイヤーが共通のアジェンダの達成に向けて、セクターを超えて協働するというアプローチです。

コレクティブ・インパクトの成功の鍵を握るのは、「共通アジェンダ」「共通の評価指標」「支柱となるサポート」「相互に補完し合う活動」及び「定期的なコミュニケーション」です。アガワルさんから、それぞれについての説明があり、さらにコレクティブ・インパクトの具体例としてウガンダのプロジェクトの紹介がありました。

グローバルNGO/NPOの取り組み事例

基調講演を受け、ウォーターエイドジャパン事務局長の高橋郁さんから「すべての人に水・衛生を」と言うタイトルで、NGO/NPOからの視点と、企業との協働についてのプレゼンがありました。ウォーターエイドは、全世界34カ国で活動しているグローバルNGOです。1981年に設立され、職員数約1000名、年間予算約150億円という大規模な組織です。英国のチャールズ皇太子が会長を務めています。ウォーターエイドジャパンは、このウォーターエイドの日本支部として2013年に設立され、日本国内で活動しています。

水・衛生問題は、日本企業にとっても重要な課題です。日本は様々な原材料や食料品を輸入していますが、その多くは大量の水を消費しています。持続可能な企業活動を確保するためには、水・衛生問題を避けて通ることはできません。

高橋さんからは、ウォーターエイドの取り組みとして、HSBCとの共同によるインド・バングラデシュでの「持続可能なサプライチェーンプログラム」の紹介がありました。これは、現地の24の衣料品工場とそのコミュニティに対して水・衛生サービスを提供するプロジェクトです。対象には、小規模な職人コミュニティから、大規模な織物・皮革工場までが含まれます。プロジェクトでは、労働者の生活・労働条件の改善だけでなく、水・衛生への投資がもたらす経済的・社会的インパクトの評価も行います。これにより、水・衛生への投資が、持続可能な開発に不可欠であり、経済的にも合理的であることを実証することを目指しています。ウォーターエイドは、プロジェクトのガイドラインを策定し、さらに多くの企業やコミュニティの参加を促進する予定とのことでした。さらに、高橋さんから、Lixilグループとの連携によるSatoトイレの普及事業などの紹介もありました。グローバルに活動するウォーターエイドが、グローバル企業と連携してコミュニティの水・衛生問題の改善に取り組む活動が印象的でした。

SDGsファイナンスの発展

最後に、社会的投資研究所の小林立明研究員から、「SDGs達成に向けたソーシャル・ファイナンス」というタイトルで、主にファイナンス手法に焦点を当てた発表がありました。発表では、SDGs達成のために、開発途上国のみで毎年約2.5兆ドルの資金ギャップがあり、先進国を含めると毎年5〜7兆ドルの資金ギャップを埋める必要があるとの指摘がありました。これを、政府・開発協力機関のみで埋めることは困難であり、民間資金の活用が不可欠となります。

現在、こうしたSDGsの資金として期待されているのが、「企業投資」、「社会的インパクト投資」、「ブレンディド・ファインス」、「グリーン投資」です。特に、社会的インパクト投資は重要であり、メインストリーム化とサステナブル投資からの資金獲得が必要となります。小林研究員からは、この拡大のためのエコシステムの整備について説明がありました。

その上で、小林研究員より、WASHにおける民間資金活用事例として、Water.orgというNPOによるWater Creditプログラムの紹介がありました。これは、開発途上地域におけるマイクロファイナンス機関へのキャパシティ・ビルディング支援プログラムです。支援により、マイクロファイナンス機関の資金調達能力を高めることで、より多くの資金を開発途上国の人たちが借りることができるようになれば、市場活用型の安価なトイレや水道サービスへのアクセスが向上することが期待されます。実際、このプログラムは、直接低所得者層に対して支援するよりもインパクトが大きいと言うことで高く評価されています。このキャパシティ・ビルディング支援の成功を踏まえ、Water.orgはさらなるスケールアップを目指してWater Equityというインパクト投資ファンドを立ち上げました。このファンドは、Water.org以外からも投資資金を調達し、マイクロファイナンス機関や事業者に直接投資を行っています。これにより、さらに市場活用型のトイレや水道サービスの発展が期待されます。

ついで、ブレンディド・ファイナンスの事例として、OECDによるFinancing Water円卓会議の設立とマッピングや政策分析を通じたブレンディド・ファイナンスの発展に向けた取り組みが紹介されました。さらに、コレクティブ・インパクトを可能にする資金提供手法の事例として、米国助成財団センターが立ち上げたWashFundersというプラットフォームの紹介もありました。これは、全世界の主要資金提供機関や事業者を網羅したデータベースで、世界のどの地域でどのような事業者が活動しており、どのような機関が資金を提供しているかをビジュアルに把握することができるプラットフォームです。このプラットフォームを通じて、助成財団や国際機関は、資金提供協力や棲み分けを図ることが期待されます。

最後に企業投資の事例として、WASHに関わる企業、国際機関、NGOが設立したToilet Board Coalitionの紹介がありました。彼らは、トイレ・エコノミー、衛生分野の循環エコノミー、及び衛生分野のスマート・エコノミーの3つの経済圏からなる衛生エコノミーを提案しています。最新のIoT技術を活用し、持続可能な循環エコノミーを確立しながらトイレ・衛生分野での市場を発展させていくことでWASH問題に取り組もうと言うユニークな試みとして注目されます。

SDGsへの新たなアプローチ

最後に、3名の発表者によるパネル・ディスカッションと質疑応答がありました。パネル・ディスカッションでは、まずCSVによる市場活用型アプローチの可能性と限界について議論しました。CSVによる市場活用型アプローチは、スケールアップが可能ですが、もちろん限界があります。市場を活用する以上、購買力のある層が前提となります。しかし、最貧困層や辺境コミュニティなどは市場を活用することができません。アガワルさんは、20%程度、確実に市場活用型アプローチから取り残される人たちが存在すること、こうした層については政府やフィランソロピーに頼らざるを得ないことを指摘しています。

また、市場活用型アプローチを展開するにあたっても、開発途上国の場合、様々な障壁があります。コミュニティ・トイレを設置するとしても、どこに設置するのかという問題が発生します。また、宗教、民族、社会階層、文化、慣習などの様々な要因により、トイレが普及しない事例は多数存在します。さらに、ビジネス展開にあたってのリスクとして、道路・交通機関が整備されていなかったり、トイレを建設するための原材料の入手が困難だったりという、インフラストラクチャーやサプライチェーン上の問題も無視することはできません。

日本企業への期待

こうした複雑な問題を解決するためには、コレクティブ・インパクトによるアプローチが重要となります。企業だけでなく、行政、NPO/NGO、コミュニティなどの多様なプレイヤーが共通目標を設定して問題の解決に取り組むことが必要です。コレクティブ・インパクトの成功の鍵を握るのは、バックボーン機関と呼ばれる中核的支援組織の存在ですが、通常、これはNPOや助成財団が担うことになります。この点からも、NPO/NGOの役割は重要です。パネル・ディスカッションでは、さらに、NPO/NGOの役割として、上記のような市場活用型アプローチの制約となるコミュニティの文化、慣習、宗教などの社会的コンテクストを理解し、コミュニティと企業の対話を仲介すると言う役割の重要性も指摘されていました。

最後に、日本企業が、今後、このようなCSVによる市場活用型アプローチを使って、SDGsの問題に取り組む可能性についてパネリストからコメントがありました。SDGsに対する関心は日本でも高まっていますが、まだ社会貢献やCSRの分野として認識している日本企業が多いかと思われます。アガワルさんは、グローバル企業は既にSDGsを新たなビジネスの機会としてとらえ、企業自身の競争力強化とブランド力向上を目指している点を改めて強調し、日本企業の積極的な参加を呼びかけました。また、高橋さんは、NPOの立場から、まずは日本企業が水・衛生問題を自分たち自身の問題として認識し、サプライチェーンの見直しやビジネス機会の洗い出しを行うことが重要であるとした上で、こうした作業を行うにあたってのNPOとの協働の必要性を強調していました。

今回の特別セミナーは、2時間と言う短いものだったにもかかわらず、このように充実した議論がなされました。セミナー終了後も、参加者とパネリストの名刺交換や意見交換が遅くまで続いていました。SDGsに対する市場活用型アプローチの重要性が改めて浮き彫りになったセミナーだったと思います。セミナーを共催いただいたグローバル・エンゲージメント・イニシアチブ有志会と事務局のピープル・フォーカス・コンサルティングの皆様に改めてお礼申し上げます。特に、専門的な議論の逐語通訳を担っていただいたピープル・フォーカス・コンサルティング取締役の黒田由貴子さんには深くお礼申し上げます。