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ベンチャー・フィランソロピーの手法とエコシステム

小林 立明 | 2019.02.03


1月28日(月)、社会的投資研究所主催により、英国セント・アンドリュース大学フィランソロピー&公益研究センター・アソシエイトのロブ・ジョン博士をお招きし、クローズドのラウンド・テーブルを開催しましたので概要をご報告します(サントリー文化財団助成。)。

ラウンド・テーブルのテーマは「ベンチャー・フィランソロピー:実践手法とエコシステムの構築」です。ロブ・ジョン博士は、2000年代以降、英国最古のベンチャー・フィランソロピー・ファンドであるアンドリュース慈善信託事務局長、欧州ベンチャー・フィランソロピー協会(EVPA)初代事務局長、アジア・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワーク共同設立者兼初代事務局長等を歴任してこられました。まさに、グローバルなベンチャー・フィランソロピーを牽引してきたキーパーソンの一人です。現在も研究者として、アジアのベンチャー・フィランソロピーやギビング・サークル、企業フィランソロピーを中心に研究を行い、精力的に論文を発表しておられます(ご関心のある方は、https://about.me/robjohnをご覧ください)。

1.ベンチャー・フィランソロピーとは

ラウンド・テーブルはまず、ロブ・ジョン博士のプレゼンテーションから始まりました。ポイントは以下の通りです。

  1. 歴史
    • 「ベンチャー・フィランソロピー」という言葉自身は、1969年、米国でロックフェラー氏が初めて使用。その時点では、助成財団がリスクをとってイノベーションに投資することを一般的に表現した言葉だった。
    • 1990年代に、シリコン・バレーにITビリオネアーが登場し、ベンチャー・キャピタルの手法を活用したフィランソロピー活動を開始。これが「ベンチャー・フィランソロピー」として定着。
    • 2000年代以降、「ベンチャー・フィランソロピー」という言葉の下に、助成から投資まで、多様な支援手法が発展していく。その延長上に社会的インパクト投資がある。
  2. 特徴
    • 共通定義は存在しないが、資金だけでなく、アドバイスなどの非資金的支援やネットワーク化など支援を行うところに特徴がある。
    • 一般に、スケールアップや非営利から営利への法人形態の転換などの転機を迎えた非営利組織や社会的企業に対して支援を行う。
    • 支援にあたり、パフォーマンス評価を重視。
    • 支援対象を限定し、少数精鋭でインパクトを目指す。支援期間は3〜5年。
  3. ベンチャー・フィランソロピーの支援プロセス
    • 投資戦略の策定
      • 投資先の活動分野、発展ステージの決定
      • 支援手法の決定
    • 案件審査
      • 案件探し
      • 書面審査・インタビュー
    • デュー・ディリジェンス
      • 社会的インパクト、財務的持続可能性、組織としての耐久力等をチェック
      • ニーズ評価、リスク評価、スケールアップ戦略、エグジット戦略等
    • 投資先決定・契約締結
      • 投資金額、非財務的支援内容、ボードへの参画等の条件を設定
    • マネジメント
      • 投資・非財務支援の提供
      • 日常的なコミュニケーション
      • 問題解決
      • パフォーマンス・チェック
    • エグジット
      • 当初目標達成
      • 第二のファンドへの移行
      • 資金回収
      • 失敗
    • エグジット後のインパクト評価
  4. ベンチャー・フィランソロピーのエコシステム
    • 資金提供(フィランソロピスト、財団、ファンド等)
    • 資金需要(非営利組織、社会的企業、ソーシャル・ベンチャー等)
    • ベンチャー・フィランソロピーを後押しする法制・税制・規制等
    • 中間支援組織

2.討論:ベンチャー・フィランソロピーを支えるエコシステム

 その後、参加者を交えたラウンド・テーブル討論を行いました。議論の中心は、「このようなベンチャー・フィランソロピーを支えるエコシステムをどのように整備していくか」でした。

日本の場合、休眠預金活用法の成立により、資金供給の体制は整備されつつあります。SIP、KIBOWなどのファンドも登場しています。また、社会的企業やソーシャル・ベンチャーも発展しつつあり、資金需要面でも体制は整備されつつあります。ま法制面でも、一般社団法人や合同会社など、社会的企業の受け皿となる法人制度は普及しつつあります。このように、日本においても、ベンチャー・フィランソロピーを支えるエコシステムは整備されつつあると言えるでしょう。

しかし、残念ながら、日本の助成財団の大半は、このようなベンチャー・フィランソロピー型の支援手法を取り入れていません。また、ベンチャー・フィランソロピー発展の鍵を握る中間支援組織も、Etic.など一部を除けばまだ発展途上にあります。今後、社会的企業やソーシャル・ベンチャーのスケールアップを支援していくためには、財団やファンドのコミットメントと中間支援組織の育成が最大の課題ではないでしょうか。

また、日本の場合、企業が「CSRからCSVへ」という流れの中で、資金だけでなく、人材、スキル、その他の企業リソースを活用した支援を行う事例が増えています。日本におけるベンチャー・フィランソロピーの発展のためには、このような企業の積極的な参加も欠かせない条件だと思われます。

最後に、ロブ・ジョン博士から、以下の総括がありました。

  • ベンチャー・フィランソロピーは、より戦略的で成果志向のフィランソロピーを確立しようというグローバルな潮流の一つとして位置付けられる。ベンチャー・フィランソロピーが唯一の手法だということではなく、ソーシャル・ファイナンスという全体的なエコシステムの中の一要素だという点には留意しなければならい。
  • ベンチャー・フィランソロピーの手法は、企業の社会貢献の重要なツールともなり得るし、また若い世代のプロフェッショナルの社会参画のツールともなり得る。
  • ベンチャー・フィランソロピーや、さらに幅広くソーシャル・ファイナンス一般の発展のためには、独立性を維持した調査・研究を行い、批判的な視点を持ってその良い面と悪い面の双方を分析していく必要があることも忘れてはならない。

3.終わりに

上記以外にも、参加者から活発な質疑応答がなされて、非常に充実したラウンド・テーブルになりました。ラウンド・テーブルには、行政、金融機関、投資ファンド、助成財団、コンサルティング会社、中間支援組織、大学などからベンチャー・フィランソロピーや社会的インパクト投資にご関心のある方々にご参加いただきました。ウィークディの午後の貴重な時間を割いて参加いただき、内容の濃い議論を展開していただいた参加者の皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。

*このラウンドテーブルは、サントリー文化財団助成プロジェクト「ソーシャル・ファイナンスを促進する制度的基盤に関する比較研究――東アジアにおけるエコシステムの構築に向けて」の一環として開催されました。プロジェクトの成果は、今後、報告書として取りまとめられる予定です。

ロブ・ジョン博士